削除のほかに取得と変更も対象になる
第359条に挙げられている操作は、記録の取得、削除、変更です。データをすべて消す犯罪とだけ理解すると、許可のない書き出しや内容の改変という問題が抜け落ちます。ただし、ダウンロードや編集の履歴があるだけでは足りず、対象、正当な理由の有無、損害を確認する必要があります。
メール、データベースの内容、共有フォルダのファイルなどについては、実際に扱われた記録、保存先のシステム、操作前後の違いを特定します。「会社の秘密」や「自分が作った成果」という呼び方だけでは、誰にどの権限があったかは分かりません。ファイルの作成者と、業務上そのファイルを削除できる人は、同じ問題として扱えないためです。
管理権限があっても操作の許可を確かめる
社内規程に沿って重複ファイルを消した場合と、労使間の争いから共有資料を消した場合では、許可と目的を具体的に比較します。管理者権限によって操作ができる状態にあっても、個々の操作に正当な理由があるとまでは証明されません。会社が後から不満を示したことだけで、当初の許可を否定することもできません。
業務規程、削除の指示、上司の承認、引継ぎ資料、権限変更の記録が、許可の範囲を調べる材料になります。誤操作だったという説明があれば、作業手順、確認画面、一括処理の範囲、その後の対応も検討します。ファイルが消えたという結果から、直ちに報復目的の故意を推定するのは適切ではありません。
復元できても、既に生じた影響は調べる
この条文は、損害を生じさせたことを要求しています。損害を生じさせるおそれがあったという説明だけでは、この結果要件を満たしません。業務停止、情報の不正確さ、復元費用を損害として主張する場合は、発生時期、具体的な影響、その操作とのつながりを示す必要があります。
バックアップの存在は、被害の程度やデータが永久に失われたかを考える材料です。それでも、復元まで業務が止まったか、復元作業が必要になったかは別に調べます。一方、会社のIT関連費用をすべて当該操作の損害に含めることもできません。通常の保守費用、別の故障による費用、今回の変更で発生した費用を分けると、因果関係の争点が明確になります。
復旧後の画面だけでは残らない情報
サービスを継続するために直ちに復旧しなければならない場合でも、可能な範囲で元のログ、バックアップ日時、版の差分、復旧手順を残すことが考えられます。後から、どの時点に、どのアカウントが、何を実行したかを追えるようにするためです。復旧後の画面だけでは、それ以前の状態を十分に説明できない場合があります。
画面の画像はある時点の表示を示しますが、元のファイルやシステム記録、書き出し方法は、その由来を補います。技術者へ引き渡した場合には、相手と作業内容も記録できます。確認のために元データを何度も上書きすると、別の変更が重なります。これらは保存方法の提案であり、一つの記録だけで操作者、故意、損害の全体が証明できるという意味ではありません。
告訴の手続と侵入行為の評価は別になる
刑法第363条により、第359条は告訴を要する犯罪です。刑事訴訟法第237条の6か月は、告訴権者が犯人を知った時から数えます。被害や権利の主体と、告訴をする人の権限も確認します。どの端末に保存されていたかだけで、告訴権者を決めることはできません。
第238条では第一審の弁論終結前に告訴を取り下げられますが、取り下げた人は再び告訴できません。ファイルを戻すことや復旧費用の賠償は、告訴の取下げとは異なります。また、システムへの侵入もあった場合は、第358条などの要件を別に検討します。第359条に必要な損害が認められないことだけで、ほかの行為の法律問題までなくなるわけではありません。
刑法第358條 · 刑法第363條 · 刑事訴訟法第237條 · 刑事訴訟法第238條
前後の指示を含めて資料を残す
削除の前後に上司の指示、同僚の共同作業、システムの自動整理があった場合、有利な記録と不利な記録の両方を保存します。「消した」という一文だけでは、対象ファイル、指示の有無、復元の経過が分かりません。「整理してほしい」という一文だけでも、実際に許された操作の範囲は読み取れない場合があります。
資料を説明する複製に、争いのある時刻や操作を示すことはできますが、元のメッセージは変更しない形で残します。後の説明は理解を補うものであり、当時の記録の代わりにはなりません。損害額や操作者が未確定なら、確認済みの事実と推論を分けることで、各主張の出所をたどれるようにします。