本記事は台湾法に基づきます。相談は中国語で行いますが、通訳の手配についてご相談ください。
台湾刑法第309条の公然侮辱と第310条の名誉毀損は、どちらも親告罪です。告訴できる人が犯人を知った時から6か月以内に告訴しなければなりません。2024年の憲法法廷113年憲判字第3号判決は公然侮辱の処罰範囲を絞り込み、発言の文脈を踏まえて、一般の人が合理的に我慢できる範囲を超えているかどうかを事件ごとに判断するよう求めました。
公然侮辱と名誉毀損は、どう違うのですか?
公然侮辱は、人前で他人の名誉をおとしめる言葉そのものを処罰するもので、具体的な事実を挙げている必要はありません(刑法第309条)。名誉毀損(台湾刑法上の罪名は「誹謗罪」で、日本の名誉毀損罪と要件が同じではありません)は、広く知らせる目的で、他人の名誉を傷つけるような具体的な事柄を指摘したり、人に伝えたりする行為です(第310条第1項)。
簡単にいえば、公然侮辱は抽象的な罵倒や人格攻撃、名誉毀損は具体的な事実を述べたり人から聞いた話を広めたりすることが中心です。立証の仕方や、使える反論(抗弁)も違ってきます。
言葉がひどければ、それだけで公然侮辱罪になりますか?
言葉の汚さだけでは決まりません。憲法法廷113年憲判字第3号判決によると、発言の文脈に照らして、他人の名誉を公然とおとしめる発言を故意にしたか、それが一般の人が合理的に我慢できる範囲を超えているかを判断します。そのうえで、名誉への影響と、その発言が公共の問題をめぐる議論に役立つか、文学・芸術の表現か、学術・専門分野での価値があるかを比べ、その事件で名誉を表現の自由より優先して守るべきかを検討します。
同じ判決は、公然侮辱罪で拘役(短期の拘禁刑)を科すのは、名誉の侵害が重大な場合に限るべきだとも述べています。たとえば、ネットに投稿したり電子的な通信で広めたりして、長く続く、積み重なる、広がり続けるといった深刻な被害が生じるおそれがある場合です。なお、この判決は公然侮辱罪そのものを違憲としたわけではありません。処罰の範囲をこのように絞ったうえで憲法に反しないとし、「侮辱」という言葉も法律の明確性の原則に反しないと判断しています。判決のうち、個別の事件の確定判決を審査した部分は、ここでは取り上げていません。実際に罪が成立するかどうかは、発言の文脈に照らして事件ごとに判断されます。
所處罰之公然侮辱行為,係指依個案之表意脈絡,表意人故意發表公然貶損他人名譽之言論,已逾越一般人可合理忍受之範圍;經權衡該言論對他人名譽權之影響,及該言論依其表意脈絡是否有益於公共事務之思辯,或屬文學、藝術之表現形式,或具學術、專業領域等正面價值,於個案足認他人之名譽權應優先於表意人之言論自由而受保障者。(憲法法庭113年憲判字第3號判決主文第1項)
〔非公式要約〕憲法法廷113年憲判字第3号判決の主文第1項は、発言の文脈と、名誉権と表現の自由の比較衡量にもとづいて、公然侮辱の処罰対象を限定しています。
出典:憲法法廷113年憲判字第3号判決(2023年12月25日に口頭弁論、2024年4月26日に判決公告)。判決要旨 ↗
名誉毀損でも、処罰されない場合はありますか?
あります。指摘した内容が真実だと証明できれば、処罰されません(刑法第310条第3項)。
ただし、私徳に関わり公共の利益と無関係な事柄には、第310条第3項の真実性による不処罰は適用されません。犯罪の構成要件や、善意の発言について定める第311条などの不処罰事由は、別に検討する必要があります。私徳の問題か、公共の利益に関わるかは、具体的な事情から判断されます。また、憲法法廷の112年憲判字第8号判決(2023年)は、指摘した内容が公共の利益に関わる場合、真実だと証明できなくても、発表の前に合理的な裏付け調査をしていて、手に入れた資料から客観的にみて真実だと信じるだけの理由があれば、処罰されないとしました。この判決は司法院釈字第509号解釈を補うもので、第310条第3項ただし書の制限は、この判決の後も残っています。裏付け調査が十分だったといえるかどうかは、名誉と表現の自由のバランスを踏まえて、事件ごとの事情から判断されます。
對於所誹謗之事,能證明其為真實者,不罰。但涉於私德而與公共利益無關者,不在此限。(刑法第310條第3項)
〔非公式要約〕刑法第310条第3項は、名誉毀損の事柄が真実であると証明された場合の不処罰を定めます。ただし、私徳に関わり公益と無関係な場合は除きます。
ネットでの悪口や転載は、罪が重くなりますか?
文字や画像を広める方法で名誉毀損罪が成立する場合は、第310条第2項が適用され、2年以下の有期徒刑、拘役、または3万台湾ドル以下の罰金の対象になります。ネット上の発言や転載が全てこの類型になるわけではなく、具体的な内容と広め方を検討します。口頭での名誉毀損(第1項、1年以下の有期徒刑など)より重い法定刑です。
また、前述の憲法法廷の判決も、公然侮辱に拘役を科すかどうかを考える際、ネットへの投稿や電子的な通信による拡散で、長く続く・積み重なる・広がり続ける深刻な被害が生じるおそれを重要な事情としています。
告訴はいつまでにすればよいですか?
公然侮辱と名誉毀損は、刑法第314条により親告罪とされています。告訴できる人が犯人を知った時から6か月以内に告訴しなければなりません(刑事訴訟法第237条第1項)。
告訴期間を過ぎると、その犯罪について、その告訴権者から適法な告訴をすることはできなくなります。ただし、告訴できる人が複数いる場合、そのうち一人が期間を過ぎても、ほかの人の告訴には影響しません(第237条第2項)。
投稿・発言の証拠と告訴期限
告訴するかどうか迷っているとき、告訴状や証拠を準備しているとき、警察や検察から通知が届いたときは、早めにご相談ください。
職場での発言をめぐるトラブルは、職場いじめの調査手続きにも関係することがあります。職場のいじめは刑事事件になりますか?もあわせてご覧ください。このページは一般的な情報の提供であり、個別の事件への法的意見ではありません。
